手塚治虫『火の鳥』をご紹介

膨大な数の作品があふれる昨今。

私たちは何を読むかを決めるとき、その時間を使って読めるはずだった別の作品を読まないことも選択している。

短い人生、なるべく面白い作品に出会えるように人からの影響バンバン受けてこ!

目次

  1. イントロダクション
  2. 読了時間とボリューム
  3. どんな話?
  4. 読んでみた感想
  5. まとめ

1.イントロダクション

だいぶ間があいてしまいました!

第5回は名作、傑作、といわれる火の鳥です。

いつものように図書館で予約(‘ω’)♪と思っていたら、

七人待ち!?そんなに待ちたくない(;´Д`)買うか……となっていたんですが、なんと。

うちの大学の医学部図書館に手塚治虫の作品コーナーあったーーー!!!

全集がね、ギュギュっとひとつの本棚に集まって、入ってすぐのラウンジに置かれていたんです。

医学部の図書館ってとこの大学でもそうなんですか?それとも手塚治虫が卒業生だから?

いずれにせよ私にとって神のような場所でした。

Twitterで後輩(?)のツイート見て知ったよ。みつよし君ありがとう。

2.読了時間とボリューム

黒い表紙の全集は、全部で16巻ありました。

ちゃんと計算すると、読み終わるのに二日間で合わせて9時間かかりました。

内容は濃いしぶっ飛んでるしボリュームもすごいし、普通に超疲れました。

とても面白いのでどんどん読んでしまうのですが、

正直両日とも最後の一時間はやや読み飛ばし気味?ブラウジング気味?でした(-.-)

参考にしてください。

3.どんな話?

僭越ながらまとめさせていただくと、生きることについての話です。

なぜ生きるのか?そしてなぜ死ぬのか?どう生きるのが幸せなのか?いのちとは何か?

人間にとって大きすぎる問いに立ち向かった作品でした。

形式としては、火の鳥を物語の中心とした編の連なりとなっており、どの編から読み始めても単独で楽しめる構造となっています。

題名にもなっている「火の鳥」ですが、宇宙の生命エネルギーの一部のようなもの、と火の鳥自身が説明しています。

人間の目にはからだに火をまとった美しい鳥の姿に見え、生き物の心に直接語りかけることで会話もできます。

そして、その血を飲めば永遠の命が手に入る……そういう言い伝えがいつの時代も存在し、火の鳥を求める人間はあとを絶ちません。

物語が展開する場所はいちおう日本や朝鮮半島のあたりが中心となっており登場人物も日本人設定のようです。

しかし、西暦3000年とかになってくると人類は宇宙にフツ―に進出しているので、そういった枠もよく分からなくなってきます(笑)

作品の中では様々な時代を取り扱っていますが、基本的に「ものすごい過去」か「ものすごい未来」、

つまり卑弥呼の時代くらいから、西暦3000年くらいまでの両端を描いている感じです。なので私たちが生きてるような1900~2000年代の話は全くないです(これ、なぜ現代の話が無いのか?っていう国語の問題が作れそうじゃない?ちょー恣意的なやつ)。

で、もうこれは他の感想書いてる人がみんな大喜びで書いてたことなのでここではサラッといきますが、

物語が巨大なループ構造になっています。物語自体が輪廻していることに最後になって気づかされる、って感じです。

私はスピード重視で読み進めた結果ループ構造をじっくり味わうことはできませんでしたが(笑)、手塚治虫よ……頭良すぎて頭おかしくないかな(;´・ω・)

4.読んでみた感想

やっぱり絵がチャーミングすぎますよね。

(わたしはどうしても絵が好みのものを読みたがる傾向にあるらしく、だからONE PEACEは一生読もうと思わないです。笑)

私は手塚治虫の絵だと人間の四肢と、動物がかわいくて大好きです。とにかくバランスよく丸みを帯びていて。

まあそれは手塚治虫作品の大前提としてね……。

はい。ストーリーとしては、「すっげー」以外に特にこれといった感想はないです。

もしくは、まだ何も感想らしきものは浮かんでこないです(読み終えて二日しかたってないし)。

超展開スペクタクルを9時間ぶっ通しで見せられて疲れましたわ。

ですが無理やり読後の脳内をまとめてみると、

「結局いのちって何?たぶん愛のことかな。人間って文明はどんなに進化しても一人は寂しいんだな。」

こんな感じかな。

太古の話と未来の話にはそれぞれ役割があると思います。

太古の話は、人間が本来もっている色々な欲求や機能をわかりやすく表現されています。

現代社会では子孫残したい欲とか出世欲とか征服欲とか、金銭欲、老いへの恐怖、そういったものは確かに存在していますが、文明の発展や社会性フィルターによって見えづらくなっています。

ですが古代の世界では、そういうものがよりクローズアップされて物事の動機になってくるし、それについての感情・思い入れも今より強く表現されています。

苦しみ悩みながらも力強く生き延びようとするキャラクターに共感し、ともに喜怒哀楽を味わえるという魅力が強いです。

一方、未来の話は、「技術の進歩で生命の定義自体変わってしまったとしても変わらないものは何か」ということを問いかけてくるなと感じました。

未来の人間は宇宙に進出し、不動産は宇宙物件も取り扱っています。

医療の進歩で平均寿命も100歳は越えたのかなあと推測しました(あまり年寄りが出てこないのではっきりとは分かりませんが)。

冷凍睡眠やサイボーグ手術も当たり前に行われており、ロボットがあちこちで働いています。

そんな社会に生きる人間は、どことなくひ弱で無気力に見えた――みたいなことがどっかのコマに書いてありました(笑)

色んな人が出てきます。手術で生き返ったと思ったらロボットしか人間に見えずロボットに恋してしまった男の人、

ムーピーと呼ばれる不定形生物(つまり高度な感情と知能を持つメタモンです)を自分の妻とする男の人、

無人星で自分と夫の子孫を残すために冷凍睡眠で何度でも眠り、時期が来たら自分の子どもや孫、ひ孫と子どもを作って村を築こうとする女の人(なぜか女の子がうまれないので自分で子供を作り続けるしかなかった)……。

2017年ではまだちょっと実感のわかない次元かもしれませんが、それでもその人たちの愛や感情自体は、今となんら変わらないわけです。

未来、過去、未来、過去、とひっぱり回され、だんだんと手塚治虫の考える「いのち」の輪郭、の一部を、垣間見、たような気がします(笑)

「輪廻」「生きとし生けるものみな同じ」という考えが話の根底に流れているので、人間に生まれたことをもちっとありがたがって生きよう、来世は虫かもしれんしな……と考えるようになりました(*´▽`*)

4.まとめ

読み終えてぐったりしてたら、手塚治虫作品集の本棚全体が目に入りました。

この前読んでたいへんに感動した『アドルフに告ぐ』ももちろんありました。

『火の鳥』はその中の60分の1くらいのスペースしか占めてないです。

私は『ブラック・ジャック』も『鉄腕アトム』も『リボンの騎士』も『ブッダ』も読んだことありません。

手塚治虫ってほんとに死ぬまでものすごいスピードで漫画を描き続けたんでしょね。超えなじぇてぃっく……。

クソおもしろいです。読む価値があるかと聞かれたら大いにあると思います。ものすごく疲れますけどね。

私は大学を卒業するまでに、あの本棚を制覇することに決めました☆笑

吉田秋生『BANANA FISH』をご紹介

膨大な数の作品があふれる昨今。
私たちは何を読むかを決めるとき、その時間を使って読めるはずだった別の作品を読まないことも選択している。
短い人生、なるべく面白い作品に出会えるように人からの影響バンバン受けてこ!

第4回目は吉田秋生のマンガです。
今まで吉田秋生について全く知らなかったのですが、何か別のマンガの最後に『BANANA FISH』の紹介が出ていて、タイトルのインパクトと線の綺麗さに惹かれ、一瞬で読んでみようと思いました。

私がこの漫画をおすすめする理由がストーリーというよりは絵やデザインの素晴らしさ・雰囲気なので、今回は写真も交えてご紹介していきたいとおもいます(‘ω’)

↓全19巻に及ぶ大作なのです。黄色い地に黒い文字でBANANA FISH、外国のMVで出てくるような”KEEP OUT”のテープを思い起こさせます。
そこだけに着目してもめちゃくちゃかっこいいと思いません?

↓19巻すべての表紙は主人公のアッシュ・リンクスが飾っています。巻が進むごとに線がどんどん洗練されていきます。

さて、ストーリーは??

1973年。ベトナム戦争のさなか、米兵がドラッグで錯乱し、仲間に銃を乱射して死傷させる。
その時、親友に向けて放った「BANANA FISH」という謎の一言……。

舞台は変わり、約10年後のニューヨーク。圧倒的な頭脳・戦闘センス・ルックスで黒人やアジア人のグループまで取り仕切る不良グループのボス、アッシュ。
写真家の伊部とその助手・奥村英二は、NYの不良たちの撮影を目的としてアッシュらと関わりを持つ。
アッシュは戦争中に兄が錯乱して元に戻らなくなった原因を調べていたが、そのせいでアッシュを男娼として溺愛するマフィアのボス・ゴルツィネと次第に敵対していくことになる。
屈託のない英二はアッシュが唯一心を開く友達となるが、そのせいでゴルツィネや「BANANA FISH」をめぐる壮大な戦いに巻き込まれてしまう――。

こんな感じです。

おすすめポイント3つ
①絵が良い
私がこの漫画を好きな理由の50パーセントは絵の美しさです。人間の絵が好み。無駄が無いです。そして外国人のおっさんを描くのもうまい。
このページにも登場している李月龍(リ・ユエルン)という黒髪の青年が一番好きなキャラクターなのですが、中華キャラなので衣装も普段からチャイナ服とか着こなしていて、それがめちゃくちゃ魅力的です。おそらく吉田秋生が描きやすいルックスなのでしょう。別のマンガ『吉祥天女』の主人公の女性もこのタイプの美人でした。髪の毛の描き方とかがとても好きですね。黒髪たゆたう月龍のもっと良いカットは死ぬほどありますが、ご自分でご確認ください。笑

②想像だけで書かれた都市のリアルな息づかい
本の終わりの解説的なところに書かれていましたが、吉田秋生はニューヨークに行ったことが無いそうです。
ですが、アッシュたちが都市を駆け回る様子はとてもリアル。下水道を移動するシーンや博物館のシーンなど、私たちのイメージの中のニューヨークをさらに肉付けして表現してくれています。想像力がものすごいんでしょうか。脱帽。

③たぶんこの作品が元祖「腐女子」を生んだ一因
アッシュと英二の関係は明らかに友情を超えています。
かといって別に恋愛というわけでもないのですが、ハイティーン二人の魂の結びつきとでも言えるような関係は、読んでいてドキドキするような何かがあります。この作品の連載期間は1985年~1995年とのことです。細かい分析は詳しい人にお任せしますが、1990年代末ごろからネット上で大きな潮流を作り始める腐女子文化の歴史とも合致しているのではないでしょうか?いちおう検索してみましたが、予想通りアッシュ×英二のカップリングで同人作品がたくさん生み出されていますね。
何が言いたいかというと、アッシュと英二の友愛はなかなかにグッとくるものがあるよ。ってことです。

まとめ
あくまで個人の感想ですが、正直私は、この作品のストーリー展開はやや冗長なのではないかと思いました。
もちろん面白くないわけではありませんが、序盤の期待を後半で超えてはこなかったです。ニューヨークの市警やマフィアの抗争、不良青年たちの生きざま、国家機密、戦争、謎の薬などなど、なんだかかっこよさげで意味深でテンションの上がりそうな要素をたくさん盛り込んでいますが、いつも結局は「アッシュすげー」で解決されているところに次第に物足りなさを感じるようになりました。
このマンガはキャラクターの魅力を見せるマンガであり、ストーリーはその舞台装置に過ぎないようにみえます。言いすぎですか?笑
しかし!!!それをギリギリ補って余りあるレベルにキャラクターは魅力的ですし、画面全体の雰囲気もいい。ずっと眼福で、それだけのためにおすすめする価値があると判断しました(*´▽`*)
とてもセンスのいい絵です。ぜひ読んでみてください!

↓1巻

↓まとめ買い

米原万里『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』をご紹介

膨大な数の作品があふれる昨今。
私たちは何を読むかを決めるとき、その時間を使って読めるはずだった別の作品を読まないことも選択している。
短い人生、なるべく面白い作品に出会えるように人からの影響バンバン受けてこ!

第3回目は、米原万里の作品をご紹介します。
私がもっとも好きな女性作家のひとりです(‘ω’)ノ最近亡くなられました。
お父さんが日本共産党の方で、仕事の関係でチェコのプラハに移住し、ソビエト大使館付属学校で子供時代を過ごしました。
日本に帰ってからは同時通訳者や小説家・エッセイストとして活躍し、エリツィン大統領に可愛がられていたそうです。

この人の話は子ども時代の体験ありきで書かれています。人物や時代の切り取り方がいきいきとしていて鮮やか。
親しい友達や知人の話が多いですが、大切な人たちへの愛情を前提とした細やかな観察眼がなせる業なのかなあと思います。
下ネタを愛しており、作中には明るい下ネタが飛び交っています。

さてさて!(*’▽’)詳しく見ていきましょう。
『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』

この本を読むと…
・馴染みのない社会主義国の暮らしを垣間見られる
・「中欧」と表現される地域の人々の複雑な気持ちや誇りを感じられる
・なんだかんだ筆者は聡明なお嬢さんであり、学友と学び遊ぶ姿を楽しく眺めることができる
・相互理解の難しさや面白さについて考えさせられる

この本は「リッツァの夢見た青空」、「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」、「白い都のヤスミンカ」の三編から成る作品です。
お気づきのように三つでスラブを表す色となっており、表題作には共産主義を連想させる赤を選んだのでしょう。
視点はすべてマリ(筆者は作中でこう呼ばれている)で統一されています。
三人ともマリが子ども時代に学校で仲良くなった女の子で、リッツァはギリシャ人、アーニャはルーマニア人、ヤスミンカは…?です。
マリは途中でチェコの学校から日本の中学に編入し、それからも日本で暮らしていくうちに、チェコでの子ども時代や親しかった友人たちは次第に思い出になっていきます。
しかしソ連ともに社会主義の一時代が終わり、関連する地域の情勢が不安定になってきたことを知ったマリは友人たちの安否に不安を覚えます。
大人になったマリは作家や通訳者という自身の立場なども生かし、三人と各地でなんとか再会を果たします(三人の友人たちとの再会はテレビ番組にもなっていてYouTubeで動画が見られます)。
何十年ぶりの再会に喜びあいますが、三人とも歴史の生み出した歪みに多かれ少なかれ巻き込まれており――
というお話です。

それぞれの女の子についてもう少し詳しく述べておくと、

リッツァ
ギリシア人。いつもギリシアの空の青さをマリに自慢するが、なんと本人はギリシアの空を見たことが無い。
勉強はからっきしで、映画や文学の中の男女関係に異常な興味を示す奔放な女の子だったリッツァ。
再会した時に彼女は医者になっていた。

アーニャ
ルーマニア人。お父さんがルーマニアの共産党幹部。自身も共産主義の理念に共感し、父のことを尊敬している。
なぜかその理念に矛盾した発言や行動も多かったし虚言症のようなものもあったが、とても優しくて相手に安心感を与えることができる女の子だったのでマリはアーニャを愛していた。
再会した時、彼女はロンドンで英語を使って働いており、上手だったロシア語はあやしくなっていた。さらに共産主義の理念にも反対の立場を取ったのだった。

ヤスミンカ
聡明で魅力的な少女だった。読んだ感じ、マリが最も尊敬していたと思う。
自身のことをユーゴスラヴィア人だと思っていたが、戦争が始まるにつれて自分はボスニアのムスリムであるという意識を持たざるを得なくなった。
再会したときは、ユーゴスラヴィアという国が壊れかけているためにユーゴスラヴィア人というアイデンティティが持てなくなり、そのせいで新たに表出したボスニア・ムスリムという帰属意識によって人間関係がこじれ辛い状況にあった。

一人ではどうしようもない力による悲劇
私がこの本を読んだとき、現実というのはまったく複雑で困難なものだと再認識しました。
ちょうど安部公房への傾倒もようやくおさまってきた時期にこの本を読みました。
安部公房は人間の同質性(人間を動物というフェーズで考える)にフォーカスして作品を書きがちなので、読んでるとどんな人間でも同じように理解しあえるような気分になってきます。笑
しかし米原万里の作品を読むと、やっぱ人間の相互理解って無理だナ、と正直感じてしまいますね。
「具体的な背景を持たないのっぺらぼうの人間しかいない世界なんて面白くない」という記述が本文の中にあり、それは本当にその通りなのですが。
三人の女の子たちはみな強さと賢さをもった女性へと成長していったことが伺えますが、かといって彼女たちが一人だけで歴史を変えられるわけもありません。
ヤースナ(ヤスミンカ)に至っては帰属意識の書き換えまでもを余儀なくされました。
争いは誰の責任なのか?現実が一筋縄ではいかないものだということを思い知らされます。

心を通わせる少女たち、日々の学び
全体として明るい話というわけではないのですが、マリが通っていたソビエトの学校はとても充実していたようで、読んでいると楽しくなってきます。
テストはすべて論述形式だったそうで、日本の学校とは全然違いますね。
また、マリがそれぞれの女の子たちと築く友情はとても尊いものがあります。特にヤースナは聡明な上に絵も上手で日本の葛飾北斎に興味があり、それを知ったマリは大喜びで家にあった北斎の切手をヤースナにあげた(詳細はうろ覚えです)という場面は心が熱くなりました。
今まで拾い集めてきた人生のピースが全くの他人とカチリと合わさった時の喜びがリアルに伝わってきます。

まとめ
心からのおすすめ本しか紹介しないと決めていますが、嘘つきアーニャはその中でも上位にきます。
米原万里作品はこれ以外に、もっと軽くて読みやすいエッセイもたくさんあります(『旅行者の朝食』、『不実な美女か貞淑なブスか』などなど)。
同時通訳の難しさ、言葉の面白さについて通訳者やバイリンガルならではの視点でたくさん書いてくれているので、ハマる人はハマると思います(‘ω’)ノ
女子会で話しているようなざっくばらんな語り口も魅力的です。どちらかというと男子より女子が好きそう。ぜひ読んでみてください。
米原万里については『オリガ・モリソヴナの反語法』という小説についてもいずれご紹介するつもりです。題名がキャッチ―じゃなさ過ぎて知名度低いので…。

安部公房『壁』『砂の女』をご紹介

膨大な数の作品があふれる昨今。
私たちは何を読むかを決めるとき、その時間を使って読めるはずだった別の作品を読まないことも選択している。
短い人生、なるべく面白い作品に出会えるように人からの影響バンバン受けてこ!

第2回目は安部公房の、特に有名な2作品をご紹介します。

そもそも安部公房、ご存知ですか?
高校生の人だと教科書で『棒』を読んだことがあるかもしれません。
満州で英才教育を受けた数学の天才で、東大の医学部を出ています。文学のみならず演劇や映画にも手を染めてました。
早くに亡くなっていなければ、大江健三郎よりもノーベル賞に近かったとか。
まあ頭が良すぎてヘンなものしか生み出せなかったんですね。

安部公房の作品はとにかく
ヘンなものが好きな人、頭をめちゃめちゃにされたい人
におすすめです。
茶化してますが、ヘンなものが好きな私の高校時代は安部公房に染まってました。全集にも七割がた手を出した気が…。
何が良いかって、ただヘンなだけではなく、シンプルに面白いし、今までの自分の考え方を強烈なやり方でリセットさせてくれるんです。
ベッドの上で寝ころびながらにしてジェットコースターで日本縦断している気分になれます。
都市の疎外、資本主義、共産主義、労働者、アイデンティティの喪失、人間関係の回復手段の模索などなどが関心事だったようです。

さてさて!詳しく見ていきましょう。

『壁』
私は高校の教科書で安部公房の『棒』に出会いました。
この人の本をもっと読んでみたい!と思い図書室で最初に手に取った本がこの『壁』です。
本は薄く、読むだけならサラッと読めてしまいますし、使われている言葉もシンプルで分かりやすく無駄がありません。
「S・カルマ氏の犯罪」「バベルの塔の狸」「赤い繭」(「赤い繭」「洪水」「魔法のチョーク」「事業」)の3部(6編)からなるオムニバス形式の作品集となっています。
題名だけでもすごく面白そうじゃないですか?笑
『壁』は何度も読み直しましたが、正直、全体としては私には何も理解できません( ;∀;)
たとえば「S・カルマ氏の犯罪」は、「ぼく」がある朝目覚めると、虫に、ではなく、自分の名前を失くしてしまっていた!というところから始まります。
名前が無いというだけで「ぼく」はさまざまな困難に巻きこまれます。
犯人の名前が分からず迷宮入りしていた事件のすべての犯人にされてしまったり、自分の名刺に恋人や仕事まで乗っ取られてしまいます。
現実世界で自分の存在を証明する手段を失った「彼」(途中からこの表記になる)にはすべてのものが不条理に感じられ、最終的に『彼』は壁となってしまう…。

ハ?って感じでしょ。
こんな感じのナゾの寓話的なものが6つ入っています。
「事業」なんかは簡単に言うと、キリスト教の教義にのっとって殺人を合法化しよう(‘ω’)!不細工な人間は食肉にして人類をもっと美しくしよう!(‘ω’)
というノリの話だったと思います。

このように、突飛なことを、納得できるようなできないような部分的なロジックを使ってさらっと書き上げています。
かといって適当に書かれているわけではもちろんないので、普段当たり前だと感じている世界を揺るがす力があります。
またこれについては記事を改めて書いてみたいとおもいますが、芸術の分類としてはシュールレアリスム(超現実)の系譜に置くことができます。
安部公房、気になる!という人には必ず入り口として最初に読むことをすすめる作品です。

『砂の女』
こちらのほうが安部公房作品としての知名度は高いですし、いかにもノーベル賞をとりそうな作品です。
壁と違って、読めばテーマがちゃんと分かりますし、何が書きたいのかも、それを伝える手法も上手な上に、芸術的価値までしっかりと守られていると感じました。

どんな話かというと、「偶然迷い込んだ砂の中にある集落から出られない。どう頑張っても脱出できない。俺どうしよう」という話です。
男が偶然アリ地獄のような砂の集落に迷い込んでしまうのですが、毎日トライ&エラーを繰り返して必死で砂をよじ登って脱出しようとするのにうまくいかないんです。
あと少しで脱出、というところまでいくこともあるんですがことごとく失敗に終わります。
集落に迷い込んだ日から男のことをかくまってくれている女との関係も日々変化します。
融和政策をとるときもあれば、時には殴りそうになったり、犯しそうになったり。女も村人も粘着質で多くを語らない砂のような人たちです。
ですがある日、これなら絶対に確実に脱出できるやん!!という方法を男はとうとう思いつきます。さて結末は…読んでご確認ください。

これを読んで「何を書きたいのか」を読み取れないことはまずないと思いますが、そこから何を感じるかは人によってかなり広がりがありそうです。
読んだ人と話してみるのも面白そうだなあと思いつつ、実行できないでいます( ;∀;)
本作で登場する砂のイメージは、安部公房が幼少期を過ごした満州での体験によるものとされています。
本文にも書かれていますが、砂は常に動いて移動を続けているらしいのです。
読みごたえがありつつもシャープな切れ味でくどくないです。ビールの宣伝みたいですけど。
『壁』とはタイプの違う作品ですが、文学としてふつーにおすすめです。

まとめ
なぜかあまり取り上げられることがないのですが、私は安部公房の言葉による風景や人物の描写力は正確なデッサンよりも優れていると思います。
いろいろ読みすぎてどの作品に書いてあったか忘れてしまいましたが、ボロボロのあばら家が強風に耐えなんとか立っている様子を表した言葉など思わず「うまいっ!」とひとりでつぶやいてしまいました(正確な表現は忘れてしまったので載せません。探してみてね)。細かな部分まで注目しながらも、部分の集まりにまで分解させず、実物以上に実物を伝えるというか…とにかく上手いんです。
色々な意味でびっくりの作家だと思うので、ひとりでも興味を持ってくれる人がいたら嬉しいですね(*´ω`*)
また彼の著作はまとめて紹介していこうと思います!

手塚治虫『アドルフに告ぐ』をご紹介

膨大な数の作品があふれる昨今。
私たちは何を読むかを決めるとき、その時間を使って読めるはずだった別の作品を読まないことも選択している。
短い人生、なるべく面白い作品に出会えるように人からの影響バンバン受けてこ!

これはものすごいマンガです。マジ。
ボリュームは一巻が約300ページ×4巻、
面白すぎたので読了時間は半日!!
(わたしはマンガを読むのがかなり速いほう)

↓まとめて

こんな人におすすめ
・アツい教養マンガが好き
・第二次世界大戦のことを勉強って感じじゃなく知りたい
・手塚治虫のストーリー構成力のすごさを感じたい

これを読むと
・ユダヤ人についての新たな知見が得られる
・国家、人種って何?と本当に考えさせられる
・人間のほとばしるアツさを感じられて明日を生きる力がわく

私は図書館で予約して借りて読みました。東京の図書館ってマンガ借りられます。最高です。
もしも買うときは、最後まで読みきらないといけないタイプの作品なのでまとめ買いを絶対におすすめします!!
リンクは記事の終わりにあるよ。

さてさて(*’▽’)軽くネタバレもありますが、ほんとに作品を読むことに比べたら感想文なんてゴミカスなので気にせずお進みください!

ストーリー
色々な方が解説してくださっているので手短にまとめます。
舞台は基本的に1938年~の日本の神戸が中心で、ベルリンも出てきます。
峠草平という日本人の記者が本作の狂言回しです。

パン屋の息子でユダヤ人のアドルフ・カミル
ナチ党員の息子アドルフ・カウフマン
そしてナチの総帥アドルフ・ヒトラー

この三人のアドルフが、ヒトラーの出生の秘密が記された「文書」を巡って運命を交わらせていきます。
その「文書」をめぐる騒動に人生を巻き込まれた峠草平とともに時代は動き、物語は進行します。

素晴らしいところ
三点あげます。

①登場人物ひとりひとりが矛盾を抱えながらも力いっぱい生きている
これは手塚治虫作品の魅力だと思います。本作の主要キャラは皆、自分の生まれ育った具体的な環境を強いバックグラウンドとして持ち、
ときにはそれに苦しめられながらももがき、自分なりの正義に従って生きようとしています。
たとえばナチ党員の家に生まれ育ったアドルフ・カウフマンは、神戸でできた親友のアドルフがユダヤ人であることを
友情とイデオロギーの間で強く思い悩みます。また、自身の美しい母親も、ドイツ国籍を持ってはいるがもともとは黒髪の日本人であり、
AHSでの教育が進むにつれて母を何人と考えればいいのか悩みます。
アーリヤ人の純血主義を掲げるヒトラーでさえも。
思い悩む人びとの姿からはエネルギーがもらえます。

②ストーリーが第二次世界大戦の終戦では終わらない
本作で私がもっとも素晴らしいと思った点です。
これによって、作品の質が「面白い歴史マンガ」からもう一段上に上がっています。
ナチ党員だったアドルフ・カウフマンは、ドイツが敗戦を迎えた数十年後もいまだユダヤ人の影から逃れることができず、
砂漠を彷徨うなかで出会ったアラブ人の一味に協力し、イスラエルを作ろうとするユダヤ人と戦うことを選びます。
そして、大戦中は日本の神戸においてでさえも何かと弾圧されていたユダヤ人のアドルフ・カミルは、イスラエル軍の軍人となって
今度は無名のアラブ人を殺しまくります。
人間がいる限り戦争は続くということが重みをもって読者の胸にのしかかります。

③手塚治虫の圧倒的なマンガ力(りょく)で読みやすい
誰しも言うことですが。長い年月を扱った複雑めなストーリーなのに、登場人物を詳しく描写することで構成員の立ち位置が掴みやすく、
全体として面白く読みやすい物語になっています。そもそも物語全体のボリュームも、読み応えがありつつも長すぎません。
どんな人でも一週間あれば読みきれるのではないでしょうか。
そして私は絵も大好きなんです。あんなに小さくて可愛かったアドルフ・カウフマンがとんでもない男(ハンサム)に成長していく過程、
下町の少年感たっぷりだったアドルフ・カミル(この人は関西弁を話すところも良い)が、いっぱしの頼もしい青年に成長していく過程。
また、ヒトラーの人格も含めたカリグラフィー的描写。すごいっすね。この辺は私の知識が乏しいので分かりませんが、
ヒトラーってそういう人だったのかなあと思わせるような説得力があり非常に楽しめました。絵、うまっ。

まとめ
色々と書きましたが、とにかく骨太で面白い漫画です。
わたしはこの作品に出合えて本当に良かったと思っています。なので本を紹介するという試みの第一回目に選びました。
ぜひ読んでみてくださいね。

↓1巻

↓まとめて